2017年5月25日木曜日

日本では受動喫煙が原因で年間1万5千人が死んでいるらしい

最初に断っておくが,僕はキッズだった頃にイアン・カーティスというミュージシャンの写真を見たことをきっかけに喫煙を始めた頭の弱い子であり,そして別に喫煙が人体に悪影響を及ばさないと主張するつもりはない.また専門は計算機統計学なので,生物統計や統計的因果推論が専門というわけでもない.疫学なんててんで分からない.またすべての文献に目を通す暇もないので,間違いなどもあると思う.その時は指摘してくれるとうれしい.

まず疫学が正直何だかわかないので色々ググってみたところ,かちっとした定義が見当たらず,色々な意見を総合してみると「データを用いて疾病罹患や病死の因果関係を研究する」みたいな感じでいいのかなと思う.なのでここではそういう学問だと定義しておく.まあ多分いわゆる統計的因果推論が最近は多様されているのだろう,多分.

タイトルにあるように,なんでも受動喫煙が「原因」で年間に約15000人の方がその「結果」として亡くなっているらしい.なので建物内禁煙を徹底すべきらしい.実際このような https://www.nomoresmoke2017.com/ キャンペーンサイトもできている.他人のことを考える誠に美しい日本の心を体現している,とても素晴らしいサイトと賛同者の方たちだと思う.生物統計の専門家の名前が見受けられないのが気がかりだけれど,そんな些細なことはどうでもいいのだ.気持ちと道徳が大事. 

そういうわけで,この主張の根拠となっている論文を読んでみる.当然そこには「原因」と「結果」が鮮やかに描写されているに違いない.だって賢そうな人たちがキャンペーンはってるし,何とあの乙武さんも賛同している!僕は乙武さんの大ファンである.彼こそ男の中の男であり,何時までも政治ゴロをやってないで,女体満足という本を出版すべき存在なのだ.


 元の論文はhttp://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201508017A にある"受動喫煙と肺がんについての包括的評価および受動喫煙起因死亡数の推計 " というタイトルの論文のようだ.同じ著者が書いた,同じような論文がこれ http://www.hws-kyokai.or.jp/images/ronbun/all/201011-3.pdf .2つの論文とも国立がん研究センターがん対策情報センターの片野田耕太さんという方が中心に書かれているようだ.システマティック・レビューという手法を用いて研究されたらしい.まあ要はメタアナリシスだ.426本の論文が対象となり,最終的には9本の論文が選ばれたらしい.「精査」されたわけだ.何か精査する客観的な基準でもあるのだろうかと疑問が浮かぶが,まあ取り敢えずは良しとする.

まず大事なことはこの論文は受動喫煙は間違いなく例えば肺ガンを引き起こすリスクを高めると,因果があることを前提で議論を進めている.実際著者も論文で"受動喫煙との因果関係が国際的に明らかな肺がん、虚血性心疾患、および脳卒中について・・・"と述べている.なのでこの論文は因果の有無を確認する類のものではそもそもない.そしてメタアナリシスをしているけれど,質の高いRCTなどの研究を何個も集めてそれを対象に行えば説得力もあるが,質の低いコホート分析等の研究をいくつまとめてメタアナリスを行っても,説得力は皆目ない.ゴミを集めても新しいゴミが出来るだけだ.はっきり言うが,この論文はゴミを集めてそれをエビデンスと呼んでるに過ぎない,とても質の低いものだ.受動喫煙を対象にしてRCTを行うことは非常に困難だと思うけれど,統計的手法で因果を述べたいのならきちんとするしかない.例えば因果関係の識別に兎角うるさい経済学系のトップ・ジャーナルにこの論文を投稿しても,間違いなく掲載許可されないと思う.


次に推計方法を見てみると,能動喫煙の人口寄与危険割合というものと,非喫煙者における受動喫煙の人口寄与危険割合というものを求める必要があるらしい.定義はそれぞれつぎの様にして与えられる;
( ゜Д゜)正直何のことだかさっぱり分からない.これが疫学というものだろうか.なので頑張って勉強して何とか理解してみる,と思いググってみたらつぎのブログ http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20170517#20170517f1を見つけたのでこれを参考にしてみる.


まず曝露とはここでは受動喫煙のことをさし,曝露源とは受動喫煙が行われた場所をさす.この研究では男性女性について曝露源としてそれぞれ職場と家庭を考えているようだ.まずは女性のケースで受動喫煙と肺ガンの関係を例として考えてみる.まず必要になることは,ある年に肺ガンで亡くなった方のうち,一体どれ位が喫煙していたかを知ることだ.しかしこの具体的な数字を知るのは不可能で,実際には「推計」を行う.このためにはまず女性の喫煙率を求める.この論文では厚生省の「国民健康・栄養調査」というアンケートデータを用いて,1999~2008年の10 年間の平均値を推計値とし,約10%だったらしい.これを論文では「能動喫煙の曝露割合」と呼んでいる.

次に能動喫煙の相対リスクを求める.これは僕には因果関係を所与としている様に映る.何故ならこの変数が意味するのは,喫煙をしない女性に比べて,する女性が肺ガンで死ぬリスクは相対的に約2.8倍高いことを意味するからだ.マヨネーズでも唐揚げでも飲酒でも黒点の数でもなく,喫煙によってそうなるらしい.へぇ?.この2.8倍という数字は「メタアナリシス」の結果得たらしい.はーん?.この様な数字を取り敢えず用いると,肺ガンで亡くなった女性の中で,喫煙者が占める割合が約23.7%だと分かる.肺ガンで亡くなる女性の数を約20000人とすると,以上の計算結果から約4700人が能動喫煙者で,残りが受動喫煙者ということりになる.繰り返して言うが別にこれは何ら因果を示していない.単なるゆるふわな推計と簡単な集合論の話である.

次に残りの15300人を考える.まずある「アンケートデータ」によると,日本人の女性が家庭で受動喫煙をする割合は約30%らしい,そして「メタアナリシス」の結果によると,その肺ガンによる相対リスクは約1.3倍らしい.クラクラしてくる.全体を100とすれば,これらの数値は8.3%が非喫煙者の肺ガン死における受動喫煙を経験した人間の割合であることを意味する.なので15300×8.3%で1300人が,家庭で受動喫煙を経験したと考えられ,かつ肺ガンで死亡した人が占める割合である.しつこいくらいにいうが,別にこれは因果を意味していない.

以上の様な計算を,男性,女性,受動喫煙を経験した場所(曝露源),病名を変えて繰り返し行い,足しあわせた結果が年間15000人という数字だ.1つ強調したいのは,この数字を求める際にはメタアナリシスの結果だとか,アンケート調査の結果だとかを兎角用いている.決して頑固な因果関係を示そうとした研究結果に基づいて得られてものではない.


僕が感じた問題点をまとめると次の様になる.
1 この論文はそもそも因果関係を前提としている.故にこの論文を元にして因果関係を述べることはできない.

2 メタアナリスの対象となった論文もRCTなどを行った類のものではなく,はっきりいって質の低いコホート分析を行った様な論文ばかり.

3 推計手法や用いているデータも少なくとも統計学の範疇では妥当とはいいにくい.

4 どんなに好意的にこの論文を解釈しても,せいぜいある種の病気で亡くなった人のうち約1万5000人が受動喫煙を経験したと考えられる,位のものである.これらの中には猫好きやマヨネーズ好きや偏食な人も居ただろうけれど,何故それらが原因と考えられないのか定かではない.

5 故に当然,受動喫煙が理由でその結果として毎年1万5000人が亡くなってるとはいえない

これがエビデンス・ベースによる政策運営ってやつならば糞食らえである.一般人がそういうのならば別にいいけれど,学者が言ってるのならば一体何を学んできたのか問いたくなる.この手の手法に全く明るくないのならば口出しすべきではない.

個人的にはこの手の主張をする人たちが,なぜデータ科学の手法に固執するのかが分からない.悪手に僕には映る.嫌いな人が多いし,ヨーロッパ諸国もそうしているから,悪いけれど僕たちもそうしないか?でいいと思う.

またこの手の研究に異様にメタアナリシスが多いのもきになる.某先生も仰っているが,メタアナリシスが効果的なのは各論文が例えばRCTを行った場合など,それぞれの妥当性が担保されている時に限る.いくら質の低い論文を集めても,質の低い結果が出てくるだけで,普通科学者のコミュニティではその結果は信用するに値しないと判断されるだろう.

重ね重ねいうが別に僕は受動喫煙が人体に悪影響を及ばさないとは主張してない.ただその因果関係はいわゆるデータ科学的には未だ実証されていないと言っているに過ぎないので悪しからず.


追記

1 僕のこのブログを呼んで僕がRCT至上主義者だと思った人もいる様だけれど,それは違う.実際RCTこそ最強であるなんて書いてないし,主張したこともない.そう読んだ人はまずは夏目漱石あたりから始めたほうがいいと思う.僕はただキャンペーン張っている人たちがエビデンスと呼んでいる論文が何ら因果関係を示していないと指摘しているに過ぎず,じゃあどうすればいいのかという1つの案としてRCTや擬似実験をあげているだけだ.何故統計的因果推論の話をしているのかは後で述べる.

2 そもそも別に僕は統計的因果推論の結果がそれだけでかっこたるエビデンスになると思っていない.どんなにうまく設計しても,この様な手法で推定されているのは基本的にはある種の条件付き期待値の差であって,それがAがBを引き起こしたと解釈できるか否かは数学は保証していない.また差が有意か否かだけで科学的決定を行う危険性も,アメリカ統計学会などから度々指摘されている.なので1つだけの研究に頼ることなく質の高い複数の研究を吟味すべきだと思う.もちろん質の低い論文は論外である.統計的手法にこだわる必要性もない.

3 じゃあ何故統計的因果推論や因果の話を僕がしているかというと,このキャンペーンの中心的な人物である,慶応大学の中室牧子さんと,ハーバード大学研究員の津川友介さんは,統計的因果推論の結果を主に強いエビデンス,因果だと言っているからである.僕は彼らの言うエビデンスの定義に従って,あなた方がエビデンスとしている論文はあなたがたが言うエビデンスになっていないと言っているだけだ.何故彼らは時にはRCTや擬似実験等の因果推論の結果をしっかりとしたエビデンスと呼び,ある時は単なるメタアナリシスの結果を強いエビデンスだと主張するのだろうか.本当に不思議である.

4 色々反論もある様だけれど,僕の主張は根拠としている論文が質の高いものではないと言っているだけだ,なので反論をしたければ,参照している論文の科学的・理論的妥当性をあげる必要がある.あるのならばの話ではあるけれど.

5 エビデンスベースの政策運営を徹底したいのなら,個人の好き嫌いや道徳的直感は忘れるべきである.科学者ならなおさら.自分が嫌煙家だからだとか,自分がこう思うからだとかは関係ない.私は嫌煙家だが,この論文は信用するに足らないとある先生が仰っていたが,これが正しい姿だと思う.

6 疫学系の人が統計的手法にあまり明るくないのは承知しているけれど,もし上の論文をよんでしっかりとした因果関係が示されていて,強い政策を実施する根拠に十分になりうると感じたのならば,僕はちょっと色々と大丈夫かなぁと思う.少なくとも表に出てきて欲しくない.真面目に統計学のある分野を研究・勉強している身としては,統計学やデータ科学の学問としての価値が毀損される可能性があるので迷惑でしかない.

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